文教大学広報マーケティング室の広報プランナーが毎回、キャンパスの研究室等を訪ね、そこの教職員の専門分野や研究テーマを伺いながら、その方の人柄を中心に紹介します。またその名の通り物々交換もします。


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No.007 国際学部 阿野幸一 准教授【英語教育】

「訪問するといつもたくさんの学生が集まっている。教員の周囲には、常に多くの学生がいて楽しく何かを話している・・・」そんな研究室の光景は、文教大学に比較的多いのですが、今回の先生の場合は、その典型的な例かも知れません。今回の訪問時も、研究室には既に二人の学生さんがいて、夏休みの勉強会やら何やらの打ち合わせをしているところでした。嬉しいことにその二人は、「わらしべ広報プランナー訪問記」を普段見てくれているようで、ぜひ、冒頭だけでも同席させてほしいということで、取材がスタートしました。
そんなわけで、「わらしべ広報プランナー研究室訪問記」の第7回はこの人です。


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阿野 幸一 准教授
(あの こういち)


【所属】国際学部 国際理解学科

【専門領域】英語教育、応用言語学



◎専門は、「英語教育学」

003.gif さて、早速ですが阿野先生のご専門はなんでしょうか。

「一言でいうと、英語教育学です。一般的な言い方で説明すると、私たち日本人は、日常的に英語を使わない環境にいるわけですが、英語の学習者がどういうふうな取り組み、工夫をしていけば英語の力がつくのか?ということを研究しています。その英語教育学の中でも私の一番の専門は、『教室のなかで、こういう授業の教え方をすれば、生徒が英語を好きになる』、逆にいえば、『こういう取り組みをすれば英語が嫌いになる』ということを、様々な授業の観察・リサーチを通して、まとめることです。この研究の目的は、まず、一番は、『英語を好きになってもらう』という視点で、もうひとつは、英語の力にもスピーキング力やライティング力などいろいろな側面がありますが、『それぞれの力を伸ばすためには、どのような教え方をして教材をどう使えばいいか』ということです。もっと簡単にいうと、教室のなかで先生方がどういう教え方をして、どういう教材を使えばモチベーションの面と英語力の面で生徒を伸ばせるかということです。
英語の先生の働きかけによって、生徒の英語への取り組み方は、まったく変わってくるからです。」


034.gif @阿野先生は、文教大学では、英語教員の養成、高校生と大学生対抗の英語のディベート大会の運営、学外では、NHKの基礎英語3の講師や英語教員の研修の講師など、学内外での多彩な活躍をしています。



◎英語の達人は「音読」を重視している!

003.gif 研究テーマのうち、今、もっとも力を入れていることを教えてください。

「いま、圧倒的に時間を使っているのは、NHKの『基礎英語3』です。
今まで自分がやってきた研究を実際にここでほとんどすべて出したいと思っています。
これをやるにあたってダイレクトに研究していることは二つあって、ひとつは、『音読』です。
第2言語習得の分野では、海外の論文などを読むと、意外にも『音読』は重視されていないんですね。
海外では、たくさん英語を読んだり聞いたりして、それを話したり書いたりして伸ばすということを重視しているんです。しかし、それは、社会のなかで英語をどこかで使う環境があるから。
環境が違う日本においては、『音読』をしないで英語の力をつけることは非常に難しいんですね。
私も関わった研究成果なのですが、日本で、英語の達人といわれている人たちの学習法を調べてみると、その学習法の中心部分に『音読』があるということが分かってきているんです。つまり、よく声を出して読んでいる。」



001.gif ハイテクの時代に「音読」というのは、新鮮ですが、何かほっとする気がします。

「そうですね。実は『音読』にも種類があるんです。基本的に『こういう音読をするとこういう力がつく』というようにパターン化をする研究をしています。こういう種類の音読をある一定期間やった結果、TOEICだったらこれくらい伸びる・・・などといったことをまとめています。」



◎「音読」は1種類ではない!

005.gif 「音読」にも種類があるということですが、どういうことでしょうか?

「たとえば、『音読をしなさい』と学生に言うと、テキストを見ながら普通に読み始めるのですが、ここでちょっと工夫をして、今度は鏡を前において、一文みて、顔をあげて、鏡の中の自分とアイコンタクトを取って口で言う。“It’s beautiful.” そうすると、自分の言葉に変わるのですね。」


036.gif 単に棒読みするだけでなく、鏡を使うことで、生きた音読になる?

「そうです。ちょっとした工夫で音読の質が変わるんです。もうひとつ、『リスニングの力をつけるための音読方法』を考えてみます。教室のなかで、先生が、『リピート・アフター・ミー』と後について言ってくださいと言っても、先生がモデルをやっても、実際調べてみると、生徒は聞いていないことも多いんです。その時に、『それではテキストを閉じなさい』というと、みんな聞くようになる。
リスニングの力をつけるための音読は、単純ですが、テキストを閉じてリピートをすればいいということも言えますね。」



026.gif 確かにテキストを閉じると集中力が高まる。

「もっと簡単に、一般の方にもできる音読があります。音声教材がついた教材で、テキストがあれば(ネイティブの読むCDなど)に合わせて一緒にそのまま読んでいく。そうすると、どの辺で息継ぎをすればいいのか、どの単語を強く読むかがわかるようになるんですね。これを『オーバーラッピング』というんです。」


017.gif オーバーラッピングは、NHKの「基礎英語3」でも実践されていますよね?

「はい。最初、この講座を始めるにあたってNHKの人に言われたのですが、NHKの講座では、センテンスごとにリピートするというのが通例だったそうです。しかし、そうすると、日本人の悪い癖で、後ろから意味をとってしまう。だから、私の今の講座では、センテンスにとらわれず、『意味のまとまりで区切って』リピート練習をしているんですね。

たとえば、"Where is the map that we brought?" これを、そのまま"Where is the map that we brought?"とパートナーが読むと、私たち日本人の頭のなかでは、後ろから前に戻りながら、『私たちが持ってきた地図はどこ?』と考えてしまいます。
なので、私のラジオの講座では、必ず、意味のまとまりで区切るようにしています。ネイティブスピーカーに収録前に説明するんですね。ここで区切ってくださいって。」

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「そうすると、"Where is the map" 『地図どこ?』と言って、その地図はどういう地図?ということになって "that we brought" 『私たちが持ってきた』と前から意味がとれる。
恐らくNHKラジオ講座で初めてって言われたんですけど、こういう意味のまとまりで区切る練習を最初にリピーティングとしてやります。その後に、もう一度、通しで、リズムとかイントネーションとかを重視して読むオーバーラッピングをしています。」




◎「音読」には26種類ある!

027.gif 文ごとでなく、意味のまとまりで区切って読むと、無理なく自然に理解できるような気がします。
こうした音読のパターンは何種類ぐらいあるのでしょうか?


「そうですね、今まで見てきた音読のほかに、授業のなかで、一人ひとりセンテンス単位で、リレーしながら読む『音読リレー』や冠詞の"a"や"the"をブランクにして読む難易度の高い『虫食い音読』など、現在のところ私は26パターンにまとめています。
こうした26通りの音読の仕方を、英語の先生方の研修や、文教大学の教職課程などで紹介しています。」




◎根本的な言葉の意味を理解して文法を教える

005.gif 「音読」が26通りにも分類できるというのは、大変驚きですね。
さて、音読のほかに力を入れているテーマがもう一つあるということでしたが?

「もう一つ力を入れているのは、基礎英語3でも採用しているのですが、『文法の教え方』です。どういうことかというと、単なる規則として文法を教えるのではなく、言葉の根本的な意味を理解して、身につけてもらうアプローチです。
たとえば、"want" のあとには"to"が来るって皆さん覚えると思うんですが、
これはどういうことかっていうと、"to"っていうのは、前置詞でも不定詞の場合でも、基本的に方向を示している言葉なんですね。"I go to the station." といった場合、『駅の方に向かっている』じゃないですか?『方向』を示しているから、これを時間に当てはめれば『未来』にむかっている、つまり未来のことを示している。"want" 『私はしたい』といったら、後ろにくるのは未来のことですよね。だから、"to "が来るんですね。

これに対して、"enjoy"の後には"ing"っていうのも覚えますよね。"ing" は『今、何々している』という意味があるので、"enjoy"で楽しんでいるのだったら、『今』楽しんでるんですね。また、"stop +ing"っていうんですが、"I stopped talking." 『話すのやめた』。話していることをストップだから、『今』していることをやめた。
そして英語の先生方が、"I stopped to talk." となると意味が『立ち止まってから話す』に変わるって教えます。ここで、さきほど言ったように"to"が、未来のことを示すってわかっていれば、止まって、その先にあるのが話すことだから、意味としては、『立ち止まってから話す』のにきまってくるんですね。

こういうアプローチで文法を教える方法を、基礎英語3でも1年間を通してやっています。
こういうことは認知言語学の分野なんですが、これをどういう風に中学生や高校生の英語の教材に活かしていくかということを研究しています。」



006.gif 昔、"ing"だけを目的語にとる動詞を"megafeps"といって覚えましたが、阿野先生が今お話されたように根本的な意味をイメージするほうが、ずっと実践にも役立ちそうですね。

c0223443_1035992.jpgおっしゃるとおりです。こうしたアプローチによる文法の教え方は、私のゼミナールでも、卒業研究という形で学生たちが形にしています。ここに昨年度の阿野ゼミナール2期生12名が全員で作った教材の〔Bridge〕があります。『受け身』や『現在完了形』などの文法事項を楽しく学習する問題集です。


034.gif @手に取ってみると、恋愛など、中学3年生に身近な話題を材料に、「文法を英語の根本的な意味から理解する」という研究成果が、親しみやすい絵も手伝って、活かされている教材になっているようです。ゼミ生たちの思いが、ひしひしと伝わってくるような大変な力作です。



◎「わかる」と「できる」の違いについて

018.gif 今、お聞きした、文法を規則ではなく言葉の根本的な意味から捉えていくアプローチは、まさに「わかる」ようにする取り組みだと思いました。一方、「音読」は、英語を「できる」ようにする取り組みですね。江戸時代まで日本の知識人は、漢文の学習の中で「素読」※を重視して上達させてきたことが思い出されます。英語学習の「音読」と漢文学習の「素読」は、共通するところもあるかも知れませんね。

034.gif ※素読(そどく)
   特に漢文で、内容の理解は二の次にして、文字だけを声に出して読むこと。すよみ。


「もちろん音読は理解した意味を表現する方法でもありますが、『素読』と通じるところはありますね。授業や本で、『頭でわかったつもり』だけでは『できる』ようにはなりません。例えば、アメリカの大リーグのイチロー選手のバッティングフォームを見て、気分的にはわかったつもりになりますが、ほんとにうまくなろうという人は、イチローのイメージを持ったまま、素振りや単純なバッティング練習を繰り返してフォームを身につけていくんですね。英語も同じで、理屈でわかったことを、同じことをずっと繰り返していくことで、それがいざというときでてくる。ある意味で、英語の上達は、スポーツと一緒だと思うんです。」

034.gif @素振りの話を聞いて、今春、東京六大学リーグで11シーズンぶりに慶応義塾大学野球部を優勝に導いた江藤監督の話が思い出されました。打撃練習では、素振りやバント練習などの単純な基礎練習を徹底的に選手に課すことで、選手たちが「頭で考える前に体が自然に動くようなった」といいます。
どのような分野でも、優れた指導者は「できる」ようにするために、基礎的なトレーニングを重視するものだと思いました。



003.gif 阿野先生の夢を教えてください。

いくつかの方法で日本の英語教育を変えていきたいんですよね。
ひとつは、日本の英語教育を支える、英語の教員養成がものすごく大切なので、そこに力を注ぎたい。
自分の研究はすべてそこに結び付いているんですね。文教大学では、他の大学より教職課程で英語科教育法などの実習に多く時間を割いています。文教から良い英語教員を出していきたいです。

二つ目は、現職英語教員の研修にも時間がある限り、行きたいと思っています。
現在は、基礎英語3があり、時間的になかなか行けないんですが、都道府県の英語教員研修や、私立高校での教科研修など機会があれば、時間がある限り行きたいですね。
 
そして、やはりダイレクトに大きいのは基礎英語3ですね。私自身、基礎英語からNHKラジオで英語を勉強してきたので、その恩返しをできればと思っているのです。ものすごい数の方が聞いてくださっている。中学生や高校生、大学生だけでなく、大変ではありますが、毎年ストーリーを変えることで、継続して聞いてくださっている社会人の期待にもこたえるようにしています。

あと、これも夢なのですが、中学、高校生で私の講座を聞いてくれた人が、英語を好きになって、文教大学に来てくれて、教職課程に入って英語教育の現場に行ってくれたら本当に嬉しいです。



012.gif それでは、次に宝物をみせてください。

c0223443_1653664.jpg去年、卒業式のあとにもらって、涙そそられたんですが、ゼミ生が作ってくれた『ストーリー』というフォトブックです。京都やハワイでの学会の時の写真、ゼミの合宿や発表会、コンパなど、知らない間に作っていたアルバムです。一生の宝です。ゼミ生たちとの思い出が詰まったフォトブックです。こういう形で作ってくれてびっくりしたんですけど。



◎わらしべの交換

c0223443_1704970.jpg017.gif それでは最後にわらしべの交換です。
   文学部の鷲麗美知ゾラナ先生からの品です。

「写真入れですね。うわー、これは嬉しいですね。すごい、これはいっぱい入る!これで、ゼミの思い出をためていけます。ゼミ生が撮った写真をためていけます。」


042.gif 代わりにいただけるものは何ですか?

c0223443_1751036.jpg何にしようか大変考えたんですが、このブックスタンドにしました。

毎日使っていて、原稿書くために、大変重宝していて、これを使うようになって効率が一気に上がったものです。これだったら、次の回の先生も使っていただけるのではないかということで選んでみました。



034.gif 阿野先生は、34歳のときにそれまで高校のテニス部の指導に情熱を傾けていたエネルギーを、英語教育にすべて注ぐことに一大決心したそうです。そこで、大学院に入り、働きながら修士課程や博士課程で英語教育をとことん研究。その後、母校、早稲田大学の教職課程で非常勤講師として教える機会があり、そこで「英語教員の養成と研修」の重要性に気付かされたそうです。以来、勤めていた中高をやめて大学教員となり、現在に至っています。
社会人になってからも夢をあきらめず、実際に決断をし、自らの道を切り開いていく姿勢に、感銘を受けました。
また、阿野先生が、英語教育のことを語る時は、本当に生き生きしていました。こうした英語教育への情熱は、確実にゼミ生に伝播している印象を受けました。きっと阿野先生の門下生から英語教育に関わる人材が多く巣立つのではないかとの期待と予感を胸に、研究室を後にしました。


阿野先生、どうもありがとうございました。 029.gif

次回、このブックスタンドがどのようなものに化けるか、乞うご期待です。
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by bunkyo_warashibe | 2010-08-30 17:12 | 国際学部