文教大学広報マーケティング室の広報プランナーが毎回、キャンパスの研究室等を訪ね、そこの教職員の専門分野や研究テーマを伺いながら、その方の人柄を中心に紹介します。またその名の通り物々交換もします。


by bunkyo_warashibe
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No.011 健康栄養学部 都筑馨介 教授【精神生理学】

失意に打ちひしがれているとき、手を差し伸べてくれる友人がいる・・・。
3月11日以降、世界各国からの救助隊の派遣や様々な援助の報道に触れるたび、声を詰まらせ、涙があふれるのを止められない・・・そんな1カ月だった気がします。米軍のトモダチ作戦の頼もしさ、モンゴルでは、全公務員が1日分の給与を日本への義援金にしたり、ストリートチルドレンが義援金を集めたといいます。タイからは電力不足に苦しむ我が国にガスタービン発電所2基を無償貸与することを決めました。
さて、大震災から1カ月。我々は、悲しみにくれてばかりはいられません。新しい年度を迎え、わらしべ広報プランナー研究室訪問記も、新年度はじめての回です。今回は、健康栄養学部のこの先生です。


c0223443_17223575.jpg 都筑 馨介 教授
 (つづき けいすけ)


 【所属】
  健康栄養学部管理栄養学科

 【専門領域】

  生理学、神経生理学、精神生理学


◎専門領域は神経生理学と精神生理学

003.gif まず、専門分野について教えてください。

「生理学のうち、神経生理学と精神生理学と言われる分野です。噛み砕いて言うと『心が、脳とどのようにつながっているか』を研究する分野です。脳の研究には、大きく4つの方向があります。1つ目は、『脳のしくみを知りたい』という理学分野。2つ目は、『脳の障がいで苦しむ人を助けたい』という医学分野。3つ目は、『脳をよくして、よりよく生きたい』という健康科学。4つ目は、『脳の特性を産業に生かす』工学分野があります。神経生理学や精神心理学は、このうち1つ目と2つ目に入るのですが、文教大学ではもっと心理学に近づいて、精神生理学の研究を進めていきたいと思っています。」

<図1.脳の研究領域>
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出典:「中学生がわかる『最新脳科学』」都筑馨介2011年3月27日より


017.gif 精神生理学とは、どのようなことを研究するのでしょうか。

「そうですね。『大脳生理学』というと少しは馴染みがありますでしょうか。よく知られた古典的な生理学の実験例を挙げてみましょう。ロシアの生理学者のパブロフが行った『条件反射』の実験はご存知でしょうか。現代の心理療法や学習理論の基礎になった『古典的条件付け』を明らかにしたものです。今から100年ほど前に行われたこの実験では、イヌに何度かメトロノームの音を聞かせてから肉を見せると、そのうち、メトロノームの音を聞かせただけで、イヌは唾液を出すようになる。つまり、イヌはメトロノームの音と餌とを関連させるように条件づけされたわけです。神経生理学では、『条件づけ』などの機能が、神経系のどのような細胞や分子によって担われているのか、その仕組みを明らかにする研究がされています。」

◆都筑先生は1962年東京生まれ。麻布高校を卒業後、群馬大学医学部を卒業し、群馬大学で長く生理学を研究してきたお医者さんです。文教大学には、2010年4月に健康栄養学部が設置されると同時に赴任しました。管理栄養学科では、解剖生理学・医療概論などを担当しています。


005.gif 大脳生理学というと、「あたまの良し悪し」みたいなことも研究するわけですか。

「動物実験のレベルで『あたまがいい』という場合、条件付けがつきやすく、それを長い時間保持できる個体のことをいいます。つまり身につきやすく、忘れにくいことです。この特性は、マウスの実験によって、遺伝が関係することがわかっています。一方で、私たちが一般的に使う『あたまのよさ』には、別の意味がありますよね。単純に、学校のテストの点数がいいということじゃなくて、日常生活において、状況を素早く理解し、最適な行動がとれるかどうか、つまり『使える人』かどうかという意味です。後者のほうは、その時々の時代背景や価値観などによって変わるもので、これは脳の問題ではありません。」


◎グルタミン酸とその受容体

043.gif 現在の研究内容を教えていただけますか。

「はい、私の研究は、神経細胞と神経細胞の接合部であるシナプスで、神経伝達物質を受け取る側の『受容体(じゅようたい)』についてが中心です。わかりやすく説明しましょう。例えば、条件づけされた動物の脳を調べてみると、記憶の獲得に重要な役割をする『海馬(かいば)』という部位で、神経細胞と神経細胞の間の信号伝達が強化されています。この現象は、難しい言葉ですが『シナプス伝達の長期増強』といいます。シナプスとは、神経細胞と神経細胞が接して信号伝達を行うところですが、ここでは情報を送る側の神経細胞から神経伝達物質が放出されます。放出された神経伝達物質は、情報を受け取る細胞のシナプスのところの細胞膜にある受容体を活性化するのです。」

<図2 シナプスのイメージ図>
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027.gif 神経伝達物質とは、アセチルコリンとかの類いのものですか?

「神経伝達物質としてはアドレナリンの前駆体(ぜんくたい)であるノルアドレナリンやアセチルコリンなどが知られていますが、さきほどお話した『シナプス伝達の長期増強』には、細胞を興奮させる働きをするグルタミン酸という神経伝達物質が大きな役割を果たしています。このグルタミン酸を受け取るたんぱく質に『グルタミン酸受容体』があります。グルタミン酸受容体はシナプス後膜にあって機能するのですが、それ以外に細胞の中に貯えられています。パブロフ型の学習をする際には、細胞質のグルタミン酸受容体がシナプス下膜に移動することにより、信号伝達が強化されます。私のもっとも力を入れている研究テーマは、このグルタミン酸受容体の研究です。」

◆受容体は、レセプターともいい、特定の物質を受け取ることができるたんぱく質です。グルタミン酸受容体は、グルタミン酸と結合し、受容体として機能します。都筑先生は、1990年に神経伝達物質の新しい受容体である「カルシウム透過性AMPAグルタミン酸受容体」を発見しました。


◎脳は、9割方、環境によって作られる

018.gif お話を伺っていたら、理科の授業を聞いているような錯覚をしてしまいました(笑)。さて、最近、マスメディアで、脳科学者と称する方から幼児期までに「脳は決まってしまう」という趣旨のことをよく聞きます。これでは、学習することをまるで否定しているように聞こえて、違和感を覚えます。

「海馬のなかで新しく生まれた神経細胞は、グルタミン酸受容体を介する刺激を受けなかった70%以上のものが誕生後1カ月以内に消えていきます。このことから、せっかく生まれた神経細胞も、刺激を受けないと、言いかえれば、使われないと消えてしまうんです。ですから、神経細胞が多く生まれる幼児期の刺激は、相対的に重要なことは確かと言えます。
 しかし、長らく『神経細胞は再生せず老化によって減り続ける』と言われてきましたが、ここ10年ほどの研究で、海馬のある部位の幹細胞では、生涯にわたって神経細胞が生み出されていることが分かってきました。これが、海馬の神経新生(しんけいしんせい)と言われる現象です。」



003.gif 神経細胞が生涯にわたって生み出されるという事実は、大人にとっては朗報ですね。このような基礎的な研究成果は、どのように活かされていくのでしょうか。

「神経新生が起きるということは、我々の脳は、常に変わりうるということです、つまり、楽しく学習をしたり、よい習慣をもつことは、幸せな脳を作ることに役立つのです。脳は、9割方、環境によって作られるといっても過言ではありません。遺伝子は環境の受容の方法を決めているのですが、環境は世代を超えた長い年月のうちには、自然選択を介して遺伝子に書き込まれます。遺伝子も数十億年の変化し続ける環境の産物なのです。
 では、私の研究がどのように役に立つのか?ということですが、一つの可能性として具体例を挙げてみましょう。心の『抑うつ状態』の発生メカニズムのひとつの仮説に、社会的ストレスなど人間が苦しむ状況では、神経新生が抑制されているのではないか?というものがあります。神経新生が抑制されることにより、活動性が落ち、元気が低下し、社会への適応状態がさらに低下してしまう負のスパイラルに陥ってしまう。私の研究でも、グルタミン酸受容体の遺伝子を欠くノックアウトマウス使った実験で、グルタミン酸受容体には、神経新生を抑制するタイプのものや促進するタイプのものもあることが分かっています。人間は生まれる前から、環境の影響を受け、時間軸にそって生き続けていかなければなりません。環境をうまくコントロールすることによって、80歳になっても、100歳になっても、みんなが健康な脳をどんどん発達させ、社会活動を積極的に続けることによって、活性化した社会を作れるようになるといいなとおもっています。」


◆生理学は、「脳の仕組みを明らかにする」理学分野と脳の研究を通して「苦しむ人を助ける」医学の分野にまたがる領域です。都筑先生は、長らくこの分野で研究を続け、 『Science』や『Nature Medicine』などの世界的な雑誌で研究成果を発表してきました。健康栄養学部に移った今後は、引き続き生理学の研究を続けながらも、「よりよく生きる」ことを研究する健康科学の分野まで視野を広げた研究をされるとのことです。さて、将来は、どのような新しい知見が見出されるのでしょうか。


042.gif では、「お宝」を見せていただけますか?

(動物実験室に移動して、白衣と帽子を着替えて)
「このノックアウトマウスです。」

c0223443_1835028.jpg「文教大学はこれまで文系メインの大学なので、動物実験に関する規定を整備するなど、いろいろ準備をしてもらい、群馬大学から、こちらの大学に移ってくるときに、ここにいる多くの実験用マウスも移しました。マウスは、それぞれ番号で管理されていて、何世代も交配して、4~5年、系統図をたどれる個体もいます。」

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◆お宝として生き物を指定したのは、都筑先生が初めてです。マウスを触る様子を見ていると、本当に大切にしていることがわかります。なお、「ノックアウトマウス」とは、特定の遺伝子を破壊した実験用マウスのことです。


036.gif 次に「わらしべ」を交換したいと思います。人間科学部の鎌田先生からのわらしべは、この造花です。12号館のショーウインドウで使用していたものです。

「きれいですね。さっそく、研究室に飾ります。」

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037.gif それでは、交換するものはなんでしょうか?

「いくつか候補を探したんですが、昔、どこかの骨董屋さんで買った『ペーパーナイフ』にしたいと思います。」

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「材質は象牙だと思われますが、手が込んでいる細工に引かれて購入したのかもしれません。」

都筑先生、ありがとうございました。029.gif




さて、このペーパーナイフがどんなものに化けるか、乞うご期待です。


【インタビューを終えて】
ココロとカラダの健康を考えられる管理栄養士を育てる・・・・これは、文教大学の健康栄養学部のコンセプトです。その意味で、ココロの働きを神経細胞レベルで研究している都筑教授のようなお医者さんが、教員として身近にいる環境は、健康栄養学部の学生にとって、大変心強いと感じました。

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by bunkyo_warashibe | 2011-04-18 18:16 | 健康栄養学部