文教大学広報マーケティング室の広報プランナーが毎回、キャンパスの研究室等を訪ね、そこの教職員の専門分野や研究テーマを伺いながら、その方の人柄を中心に紹介します。またその名の通り物々交換もします。


by bunkyo_warashibe
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カテゴリ:国際学部( 3 )

6号館の藤井美文先生の研究室に入ると、向かって左側に、理工学関係や経済学などの書籍がびっしり並んでいます。向かって右側には、天井まで3メートルもあろうかという書庫があり、おびただしい量の報告書や様々な環境関連の審議会のファイルが詰まっています(写真下)。そうしたファイルの前には、これまでのゼミ生との集合写真や卒業時にもらったと思われる色紙がたくさん置いてありました。後に出てくるお宝紹介では、「この書架全体をお宝として紹介しようと思った」という藤井先生。さて、どんなお話が聞けるのでしょうか。


c0223443_1116577.jpg 藤井 美文 教授
 (ふじい よしふみ)


【所属】 国際学部 国際理解学科

【専門領域】 環境経済学・
         システム分析・
         国際協力




◎課題解決型テーマを対象に

017.gif まず、専門分野について教えてください。

「私は純粋にアカデミックな領域で活動してきませんでしたので、社会や政策との接点、地域や行政との接点に関わり、issue oriented(課題解決型の)なテーマを対象にしてきました。したがって専門分野を一言でいうのは難しいのですが、現在は次の3本柱と言っています。

第1に環境経済学および環境問題に関するシステム分析の分野です。ごみのリサイクルの新しい制度としてのゴミの有料化や地球温暖化の炭素税、エネルギーと経済のシステム分析などを研究してきました。

第2に、環境問題に関する意思決定についての問題です。環境問題をやっていると、意思決定の問題に行きつくことが多いと昔から感じており、近年では環境問題を契機とした住民参加、迷惑施設をめぐる社会の決定といったテーマです。

第3は、廃棄物問題解決のための国際協力です。途上国でも、日本と同じようなゴミ問題を抱えており、日本の経験を生かして、そうした問題の解決に多少なりとも関わるプロジェクトに関与してきました。」



003.gif どういう経緯でこのような広い領域に関わることになったのでしょうか。

「もともと理工学部出身の技術屋です。大学では、機械工学のうち、燃焼工学というボイラーなどの外燃機関や炎の研究を工学的視点から勉強する先生についていました。当時1970年代前半は、公害の問題が最も激しく社会問題化していた時期でしたので、その研究をされている先生の研究室を選択しました。卒論は、窒素酸化物の生成のメカニズムに関する研究でした。公害のことを勉強するのが面白かったので、大学卒業後は、技術屋になるよりは、社会科学にも関心があったので、外資系の公害防止機器の商社に2年ほどいて、様々な工場に行って輸入機械を売っていました。

その後、本格的に燃焼工学を研究しようと思い大学院に戻りました。しかし、大学時代から、技術者の役割とか、科学技術と社会との関係に関心があったので、指導教官の小泉睦男先生の勧めもあり、日本の窒素酸化物の環境対策、特に政策や技術開発が、短期間のうちになぜ成果を生んだのかを技術的側面から研究しました。

公害の政策を考える場合、技術だけでなく、社会全体のことを知らないといけないので、当時は他大学の大学院も含めて、経済政策や経営学など3つのゼミに参加していました。修士論文では、窒素酸化物の技術史とか、政策史などをまとめるなかで、技術開発と社会の関係をシステム分析※の方法を用いてまとめました。学ぶ範囲も広かったので、このときは必死になって勉強しました。でもそこでやったことがライフワークとなってずっと生きています。つまり、当時の日本経済は公害対策を一生懸命やったことが、その後のオイルショックで省エネルギーにつながり、世界的にも優位な状況に結びつくといった社会のダイナミズムを作り上げたわけで、今でも、そこで起こったこととか、そこで行われた政策が議論されており、そういう意味で、小泉先生との出会いがすごく大きかったですね。」


034.gif ※システム分析:意思決定に際し、ある方針を選択するために、目的を体系的に調べ、目的達成のためのいくつかの代替案を作成してそれぞれ費用、効果などを定量的に検討し、最適案を選択する探究方法。



005.gif 小泉先生との出会いが、その後の藤井先生の進路に多大な影響を与えたと? 

「そうです。小泉先生は、大変優秀な工学者で、当時、窒素酸化物の技術開発政策にも関わっておられました。先生は毎朝歩いて、学校に来られるのですが、毎日1個、仮説をたてるんですね。そのほとんどは棄却されてしまうんですが、いくつかは活きてくるので、『毎日散歩をしながら仮説を作るのは、楽しい仕事だよ』とおっしゃるんですね。『へえー、こんな人が世の中にいるんだ』と思いました。先生は経済学も独学で学んでおられ、なぜ日本はなんでも国産にしてしまうのかなど、当時の貿易摩擦問題を工学のみならず広く社会・経済との関連で論じておられました。そして私に、工学部で社会科学のようなテーマを与え、後援してくださった。この出会いは、私にとって本当に大きなものでした。」


017.gif 大学院を修了された後はどうされたのですか。

「院卒業後、就職できると思っていた調査研究機関に振られてしまったので、大学時代に参加していた『技術と人間』とか『技術と社会』を勉強している東京大学の大学院の人たちを中心としたグループの人に呼ばれたこともあり、ゴミ問題のコンサルタント会社に2年ほどいました。ここでは、東京都武蔵野市の住民によるゴミ焼却場の計画づくりに関わりました。武蔵野市の住民は、市が決めたゴミ焼却場をひっくり変えしたんですね。ひっくり返しただけじゃなくて、8つの地域の自治体からなる委員会を作って、新たに建てる場所を決めたんですね。その計画づくりのお手伝いをしていました。しょっちゅう徹夜しましたが、楽しかったです。

そうこうしているうちに、昔、アルバイトしていた未来工学研究所というシンクタンクに呼んでもらったので、政府のエネルギー計画や環境問題、電気通信政策などを調査・研究していました。その後、アカデミックな電力中央研究所に移り、7年ほどエネルギー分析の領域の、特に需要サイドの研究をしていました。需要サイドの研究とは、エネルギーの価格や規制に対する、個人の行動ですね。一番の思い出は、アメリカの経済学のジャーナルでも掲載されたのですが、『電力の品質と価格』の分析でした。ここでいう電力の品質とは、停電のことです。停電といってもいろいろな種類があるのですが、『瞬停』といって、雷の影響で、人にはわからない0.02秒ぐらい瞬間的に停電することがあるんです。蛍光灯では気づかないのですが、パソコンの電源は落ちるんですね。こうした電気の品質について、瞬停があってもかまわないというユーザーには安く提供するなど、品質別に異なる料金で電気を供給する仕組みができないかを研究したわけです。

未来工学研究所では、原子力産業をまとめた調査結果を、OECDの専門部会で日本の代表として発表する機会を与えられたり、電気通信の技術政策に関する調査が本になったりしたこともあり、大学へのお誘いを受けました。学際的な学部として、『科学技術を文化として位置付ける』コンセプトを国際学部の中に作る構想があった文教大学に移ることになったんです。私は、当時4人いた技術と文化の領域の教員として、技術経済学を担当していました。」



◎大学はもっと地域社会で大きな役割を

c0223443_11333122.jpg027.gif 2番目の「環境問題と意思決定の仕組み」はどういうことをいっているのでしょうか。

「行政には、多くの人の意見を効率的に集められないかというニーズがあります。このため、近年は、国際学部の山田修嗣先生と一緒に茅ヶ崎市、茅ヶ崎青年会議所と共催で4年ぐらい、プラーヌンクス・ツェレ(直訳すると『計画細胞』と訳される)というドイツの市民参加の手法を取り入れた日本版『市民討議会』に関わってきました。これは、環境問題に限らず、4つテーマを決めて、市民の中からランダムサンプリングで30~40人を選んで、5人ずつぐらいにグループに分かれて、いろんなことを問題提起して2日間議論をするものです。市の抱える問題について、普通はあまり参加しないサイレント・マジョリティーの意見を取り入れて、市の意思決定に生かすことを目的としています。すでに5回実施しました。現在では、文教大学大学院国際協力学研究科の院生もこの市民討議会に積極的に関わってくれています。」

034.gif 市民討議会は、新たな市民参加の手法の1つとして行政と大学と商工会議所(青年商工会議所)の3者が一緒になって行っています。市民討議会は、他にも事例がありますが、茅ヶ崎市のように大学が中心になって積極的に取り組んでいるところは全国的にも珍しいそうです。藤井先生は、大学は多くの専門家を有しているので、もっと地域社会でその役割を果たしていかなければならないと熱く語っていました。


◎福島原発事故のあとに問われるエネルギーと意思決定

009.gif 原発事故のあと、卒業生から何本も電話がかかってきたとか。

「過去の私の授業では、毎年、エネルギーと意思決定の問題について議論してきました。福島原発が爆発すると・・・といった問題もおおざっぱですが、議論していたこともありましたので、今年3月の福島第一原子力発電所の事故のあと、『先生は、今回の問題について、どのように考えるか』と3人ぐらい卒業生から電話かかってきました。

分権化して、直接民主制(住民投票、発議権、リコール)が導入されると、自分たちでエネルギーの問題も決めねばならなくなるので、地域の問題を自分たちで処理しなきゃいけないことになります。そうすると、ゴミがそうですけど、原子力をめぐっても、エネルギーをめぐっても、人々の決定が大きく変わるだろうということです。なぜなら自己決定したことがブーメランのように自分にはね返ってくるからです。例えば、『神奈川県に原子力発電所が1基必要です。どこに建てるか地域で決めてください』って言われたら、原子力に対する認識は、変わらざるを得ないでしょう?今だと、国が全部決めて都心からの遠隔地に大規模で作ってくれていますけど、分権化や直接制が入るとそうはいかなくなるわけですね。こうしたことは今後も重要性を増してくるものと考えます。」

 
034.gif 藤井先生によると、90年代以降、日本の制度の流れは、民主主義の進化の流れのなかで、ボトムアップのプロセスがどうしても必要になってきているといいます。この流れのなかで、日本の社会をどう作っていくかが問われているわけですが、一方で分権化とか自己決定の制度が導入されても、人々は、制度があるのに利用していないという現状に危惧を覚えるそうです。例えば、行政が広く市民から意見を吸い上げる仕組みである「パブリックコメント」について、5年間教えてたった一人しかこの制度を知らなかったといいます。 


◎廃棄物の国際協力も大きなテーマ

025.gif 3番目の専門領域は、廃棄物の国際協力ですね。

「途上国のゴミ問題は、国際協力事業団などの補助金も得ながら、いくつか経験してきました。途上国へは学生を連れて、ここ数年毎年現場に行っています。タイでトータル6年、中国では中央政府から招かれて2年間、その他インドネシア、マーシャル諸島、ベトナムのゴミ問題を見て、現地の関係者と議論をしてきました。今度、マレーシアの廃家電の問題に関与する予定です。途上国のゴミ問題は先進国のそれよりも解決が難しいと考えており、日本の現状を移転するなどという発想はほとんど通用しません。ゴミ問題解決のための議論は、技術的側面だけでなく、制度、社会など広い領域をカバーしなくちゃいけないこともあり、政策全般、社会システム全体を扱うアプローチから、途上国のゴミ問題に取り組むことが重要だと思っています。」


c0223443_13455181.jpg004.gif 「お宝」を見せていただけますか?

「このマーティンのギターです。学生には『これは命の次に大事なものだ』といって、簡単には触らせないようにしています(笑)。下手の横好きですが、時々こっそりと楽しんでいます。大学時代からジャズが好きだったこともあり、60才でジャズ喫茶をやることが長年の夢でした。すでにその歳を過ぎてしまったので、どう実現できるか計画修正しているところです。質の高い音楽を聞かせたり、受験勉強ではない基礎学力のようなものを若い人たちに伝えたり教えたりする、そんな仕事が最後にできればと思っているんです。」


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038.gif それでは、「わらしべ」を交換したいと思います。こちらが鈴木健司先生からの、オパールです。

「すごいな、これ、もらっていいの?ありがとうございます。」



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043.gif 先生の交換物はなんですか。

ポトスです。環境にいいんですよ。室内のホルムアルデヒドなどを浄化する働きがあるんです。」

029.gif 藤井先生、ありがとうございました。


さて、次回、この『ポトス』がどんなものに化けるか、乞うご期待です。
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by bunkyo_warashibe | 2011-11-16 11:34 | 国際学部
「訪問するといつもたくさんの学生が集まっている。教員の周囲には、常に多くの学生がいて楽しく何かを話している・・・」そんな研究室の光景は、文教大学に比較的多いのですが、今回の先生の場合は、その典型的な例かも知れません。今回の訪問時も、研究室には既に二人の学生さんがいて、夏休みの勉強会やら何やらの打ち合わせをしているところでした。嬉しいことにその二人は、「わらしべ広報プランナー訪問記」を普段見てくれているようで、ぜひ、冒頭だけでも同席させてほしいということで、取材がスタートしました。
そんなわけで、「わらしべ広報プランナー研究室訪問記」の第7回はこの人です。


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阿野 幸一 准教授
(あの こういち)


【所属】国際学部 国際理解学科

【専門領域】英語教育、応用言語学



◎専門は、「英語教育学」

003.gif さて、早速ですが阿野先生のご専門はなんでしょうか。

「一言でいうと、英語教育学です。一般的な言い方で説明すると、私たち日本人は、日常的に英語を使わない環境にいるわけですが、英語の学習者がどういうふうな取り組み、工夫をしていけば英語の力がつくのか?ということを研究しています。その英語教育学の中でも私の一番の専門は、『教室のなかで、こういう授業の教え方をすれば、生徒が英語を好きになる』、逆にいえば、『こういう取り組みをすれば英語が嫌いになる』ということを、様々な授業の観察・リサーチを通して、まとめることです。この研究の目的は、まず、一番は、『英語を好きになってもらう』という視点で、もうひとつは、英語の力にもスピーキング力やライティング力などいろいろな側面がありますが、『それぞれの力を伸ばすためには、どのような教え方をして教材をどう使えばいいか』ということです。もっと簡単にいうと、教室のなかで先生方がどういう教え方をして、どういう教材を使えばモチベーションの面と英語力の面で生徒を伸ばせるかということです。
英語の先生の働きかけによって、生徒の英語への取り組み方は、まったく変わってくるからです。」


034.gif @阿野先生は、文教大学では、英語教員の養成、高校生と大学生対抗の英語のディベート大会の運営、学外では、NHKの基礎英語3の講師や英語教員の研修の講師など、学内外での多彩な活躍をしています。



◎英語の達人は「音読」を重視している!

003.gif 研究テーマのうち、今、もっとも力を入れていることを教えてください。

「いま、圧倒的に時間を使っているのは、NHKの『基礎英語3』です。
今まで自分がやってきた研究を実際にここでほとんどすべて出したいと思っています。
これをやるにあたってダイレクトに研究していることは二つあって、ひとつは、『音読』です。
第2言語習得の分野では、海外の論文などを読むと、意外にも『音読』は重視されていないんですね。
海外では、たくさん英語を読んだり聞いたりして、それを話したり書いたりして伸ばすということを重視しているんです。しかし、それは、社会のなかで英語をどこかで使う環境があるから。
環境が違う日本においては、『音読』をしないで英語の力をつけることは非常に難しいんですね。
私も関わった研究成果なのですが、日本で、英語の達人といわれている人たちの学習法を調べてみると、その学習法の中心部分に『音読』があるということが分かってきているんです。つまり、よく声を出して読んでいる。」



001.gif ハイテクの時代に「音読」というのは、新鮮ですが、何かほっとする気がします。

「そうですね。実は『音読』にも種類があるんです。基本的に『こういう音読をするとこういう力がつく』というようにパターン化をする研究をしています。こういう種類の音読をある一定期間やった結果、TOEICだったらこれくらい伸びる・・・などといったことをまとめています。」



◎「音読」は1種類ではない!

005.gif 「音読」にも種類があるということですが、どういうことでしょうか?

「たとえば、『音読をしなさい』と学生に言うと、テキストを見ながら普通に読み始めるのですが、ここでちょっと工夫をして、今度は鏡を前において、一文みて、顔をあげて、鏡の中の自分とアイコンタクトを取って口で言う。“It’s beautiful.” そうすると、自分の言葉に変わるのですね。」


036.gif 単に棒読みするだけでなく、鏡を使うことで、生きた音読になる?

「そうです。ちょっとした工夫で音読の質が変わるんです。もうひとつ、『リスニングの力をつけるための音読方法』を考えてみます。教室のなかで、先生が、『リピート・アフター・ミー』と後について言ってくださいと言っても、先生がモデルをやっても、実際調べてみると、生徒は聞いていないことも多いんです。その時に、『それではテキストを閉じなさい』というと、みんな聞くようになる。
リスニングの力をつけるための音読は、単純ですが、テキストを閉じてリピートをすればいいということも言えますね。」



026.gif 確かにテキストを閉じると集中力が高まる。

「もっと簡単に、一般の方にもできる音読があります。音声教材がついた教材で、テキストがあれば(ネイティブの読むCDなど)に合わせて一緒にそのまま読んでいく。そうすると、どの辺で息継ぎをすればいいのか、どの単語を強く読むかがわかるようになるんですね。これを『オーバーラッピング』というんです。」


017.gif オーバーラッピングは、NHKの「基礎英語3」でも実践されていますよね?

「はい。最初、この講座を始めるにあたってNHKの人に言われたのですが、NHKの講座では、センテンスごとにリピートするというのが通例だったそうです。しかし、そうすると、日本人の悪い癖で、後ろから意味をとってしまう。だから、私の今の講座では、センテンスにとらわれず、『意味のまとまりで区切って』リピート練習をしているんですね。

たとえば、"Where is the map that we brought?" これを、そのまま"Where is the map that we brought?"とパートナーが読むと、私たち日本人の頭のなかでは、後ろから前に戻りながら、『私たちが持ってきた地図はどこ?』と考えてしまいます。
なので、私のラジオの講座では、必ず、意味のまとまりで区切るようにしています。ネイティブスピーカーに収録前に説明するんですね。ここで区切ってくださいって。」

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「そうすると、"Where is the map" 『地図どこ?』と言って、その地図はどういう地図?ということになって "that we brought" 『私たちが持ってきた』と前から意味がとれる。
恐らくNHKラジオ講座で初めてって言われたんですけど、こういう意味のまとまりで区切る練習を最初にリピーティングとしてやります。その後に、もう一度、通しで、リズムとかイントネーションとかを重視して読むオーバーラッピングをしています。」




◎「音読」には26種類ある!

027.gif 文ごとでなく、意味のまとまりで区切って読むと、無理なく自然に理解できるような気がします。
こうした音読のパターンは何種類ぐらいあるのでしょうか?


「そうですね、今まで見てきた音読のほかに、授業のなかで、一人ひとりセンテンス単位で、リレーしながら読む『音読リレー』や冠詞の"a"や"the"をブランクにして読む難易度の高い『虫食い音読』など、現在のところ私は26パターンにまとめています。
こうした26通りの音読の仕方を、英語の先生方の研修や、文教大学の教職課程などで紹介しています。」




◎根本的な言葉の意味を理解して文法を教える

005.gif 「音読」が26通りにも分類できるというのは、大変驚きですね。
さて、音読のほかに力を入れているテーマがもう一つあるということでしたが?

「もう一つ力を入れているのは、基礎英語3でも採用しているのですが、『文法の教え方』です。どういうことかというと、単なる規則として文法を教えるのではなく、言葉の根本的な意味を理解して、身につけてもらうアプローチです。
たとえば、"want" のあとには"to"が来るって皆さん覚えると思うんですが、
これはどういうことかっていうと、"to"っていうのは、前置詞でも不定詞の場合でも、基本的に方向を示している言葉なんですね。"I go to the station." といった場合、『駅の方に向かっている』じゃないですか?『方向』を示しているから、これを時間に当てはめれば『未来』にむかっている、つまり未来のことを示している。"want" 『私はしたい』といったら、後ろにくるのは未来のことですよね。だから、"to "が来るんですね。

これに対して、"enjoy"の後には"ing"っていうのも覚えますよね。"ing" は『今、何々している』という意味があるので、"enjoy"で楽しんでいるのだったら、『今』楽しんでるんですね。また、"stop +ing"っていうんですが、"I stopped talking." 『話すのやめた』。話していることをストップだから、『今』していることをやめた。
そして英語の先生方が、"I stopped to talk." となると意味が『立ち止まってから話す』に変わるって教えます。ここで、さきほど言ったように"to"が、未来のことを示すってわかっていれば、止まって、その先にあるのが話すことだから、意味としては、『立ち止まってから話す』のにきまってくるんですね。

こういうアプローチで文法を教える方法を、基礎英語3でも1年間を通してやっています。
こういうことは認知言語学の分野なんですが、これをどういう風に中学生や高校生の英語の教材に活かしていくかということを研究しています。」



006.gif 昔、"ing"だけを目的語にとる動詞を"megafeps"といって覚えましたが、阿野先生が今お話されたように根本的な意味をイメージするほうが、ずっと実践にも役立ちそうですね。

c0223443_1035992.jpgおっしゃるとおりです。こうしたアプローチによる文法の教え方は、私のゼミナールでも、卒業研究という形で学生たちが形にしています。ここに昨年度の阿野ゼミナール2期生12名が全員で作った教材の〔Bridge〕があります。『受け身』や『現在完了形』などの文法事項を楽しく学習する問題集です。


034.gif @手に取ってみると、恋愛など、中学3年生に身近な話題を材料に、「文法を英語の根本的な意味から理解する」という研究成果が、親しみやすい絵も手伝って、活かされている教材になっているようです。ゼミ生たちの思いが、ひしひしと伝わってくるような大変な力作です。



◎「わかる」と「できる」の違いについて

018.gif 今、お聞きした、文法を規則ではなく言葉の根本的な意味から捉えていくアプローチは、まさに「わかる」ようにする取り組みだと思いました。一方、「音読」は、英語を「できる」ようにする取り組みですね。江戸時代まで日本の知識人は、漢文の学習の中で「素読」※を重視して上達させてきたことが思い出されます。英語学習の「音読」と漢文学習の「素読」は、共通するところもあるかも知れませんね。

034.gif ※素読(そどく)
   特に漢文で、内容の理解は二の次にして、文字だけを声に出して読むこと。すよみ。


「もちろん音読は理解した意味を表現する方法でもありますが、『素読』と通じるところはありますね。授業や本で、『頭でわかったつもり』だけでは『できる』ようにはなりません。例えば、アメリカの大リーグのイチロー選手のバッティングフォームを見て、気分的にはわかったつもりになりますが、ほんとにうまくなろうという人は、イチローのイメージを持ったまま、素振りや単純なバッティング練習を繰り返してフォームを身につけていくんですね。英語も同じで、理屈でわかったことを、同じことをずっと繰り返していくことで、それがいざというときでてくる。ある意味で、英語の上達は、スポーツと一緒だと思うんです。」

034.gif @素振りの話を聞いて、今春、東京六大学リーグで11シーズンぶりに慶応義塾大学野球部を優勝に導いた江藤監督の話が思い出されました。打撃練習では、素振りやバント練習などの単純な基礎練習を徹底的に選手に課すことで、選手たちが「頭で考える前に体が自然に動くようなった」といいます。
どのような分野でも、優れた指導者は「できる」ようにするために、基礎的なトレーニングを重視するものだと思いました。



003.gif 阿野先生の夢を教えてください。

いくつかの方法で日本の英語教育を変えていきたいんですよね。
ひとつは、日本の英語教育を支える、英語の教員養成がものすごく大切なので、そこに力を注ぎたい。
自分の研究はすべてそこに結び付いているんですね。文教大学では、他の大学より教職課程で英語科教育法などの実習に多く時間を割いています。文教から良い英語教員を出していきたいです。

二つ目は、現職英語教員の研修にも時間がある限り、行きたいと思っています。
現在は、基礎英語3があり、時間的になかなか行けないんですが、都道府県の英語教員研修や、私立高校での教科研修など機会があれば、時間がある限り行きたいですね。
 
そして、やはりダイレクトに大きいのは基礎英語3ですね。私自身、基礎英語からNHKラジオで英語を勉強してきたので、その恩返しをできればと思っているのです。ものすごい数の方が聞いてくださっている。中学生や高校生、大学生だけでなく、大変ではありますが、毎年ストーリーを変えることで、継続して聞いてくださっている社会人の期待にもこたえるようにしています。

あと、これも夢なのですが、中学、高校生で私の講座を聞いてくれた人が、英語を好きになって、文教大学に来てくれて、教職課程に入って英語教育の現場に行ってくれたら本当に嬉しいです。



012.gif それでは、次に宝物をみせてください。

c0223443_1653664.jpg去年、卒業式のあとにもらって、涙そそられたんですが、ゼミ生が作ってくれた『ストーリー』というフォトブックです。京都やハワイでの学会の時の写真、ゼミの合宿や発表会、コンパなど、知らない間に作っていたアルバムです。一生の宝です。ゼミ生たちとの思い出が詰まったフォトブックです。こういう形で作ってくれてびっくりしたんですけど。



◎わらしべの交換

c0223443_1704970.jpg017.gif それでは最後にわらしべの交換です。
   文学部の鷲麗美知ゾラナ先生からの品です。

「写真入れですね。うわー、これは嬉しいですね。すごい、これはいっぱい入る!これで、ゼミの思い出をためていけます。ゼミ生が撮った写真をためていけます。」


042.gif 代わりにいただけるものは何ですか?

c0223443_1751036.jpg何にしようか大変考えたんですが、このブックスタンドにしました。

毎日使っていて、原稿書くために、大変重宝していて、これを使うようになって効率が一気に上がったものです。これだったら、次の回の先生も使っていただけるのではないかということで選んでみました。



034.gif 阿野先生は、34歳のときにそれまで高校のテニス部の指導に情熱を傾けていたエネルギーを、英語教育にすべて注ぐことに一大決心したそうです。そこで、大学院に入り、働きながら修士課程や博士課程で英語教育をとことん研究。その後、母校、早稲田大学の教職課程で非常勤講師として教える機会があり、そこで「英語教員の養成と研修」の重要性に気付かされたそうです。以来、勤めていた中高をやめて大学教員となり、現在に至っています。
社会人になってからも夢をあきらめず、実際に決断をし、自らの道を切り開いていく姿勢に、感銘を受けました。
また、阿野先生が、英語教育のことを語る時は、本当に生き生きしていました。こうした英語教育への情熱は、確実にゼミ生に伝播している印象を受けました。きっと阿野先生の門下生から英語教育に関わる人材が多く巣立つのではないかとの期待と予感を胸に、研究室を後にしました。


阿野先生、どうもありがとうございました。 029.gif

次回、このブックスタンドがどのようなものに化けるか、乞うご期待です。
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by bunkyo_warashibe | 2010-08-30 17:12 | 国際学部
広報マーケティング室の「わらしべ広報プランナー」が各キャンパスの研究室等を訪ね、そこの教職員を紹介するシリーズの、記念すべき第1回はこの人です。

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椎野 信雄 教授
(しいの のぶお)


【所属】国際学部 国際観光学科

【専門領域】社会学


◎専門領域は、社会学。

「社会学は学問としてまだまだ体系化されていない。他の学問領域に比べて市民権も確立していない。だからこそ、社会学は面白い」と話す椎野教授。世間の全体で起こっていること自体が社会であり、これについて勉強、研究、学問をするのが社会学なんだそうだ。

唐突に専門領域をお聞きすると、言葉は心地よい音楽のように潤沢にあふれ出てきた。教授の独特な声質のせいかもしれない。

さらに言葉は続き、「社会学の対象は“近代社会”であって、歴史的には前近代とは違う“近代”という意識が出てきた人が作った世の中である。そこから近代社会を考えてみようという学問が生まれた。それが実は社会学である」とリズムを刻む。

教授の言葉を借りると、近代社会にならないと、社会学は成立しないのだそうだ。だから、日本においては、近代化されていなかった明治まで、社会学は発達していなかったのである。それがやっと戦後になって、少しずつ社会という側面が増えてきたので、社会学も市民権を得てきて、大学においても社会学が設定され、学問として認められてきたのである。

「たいへん広い領域ですね」と話すと、「中学生レベルで説明すると、とりあえず社会科という科目の延長線上で考えてもらえばいいかなと思う」と優しく答えてくれた。


c0223443_17331517.jpg◎最近の研究テーマは?

教授の最近の研究について聞いてみた。

「社会学は何でもできるので、いろいろなことをやっている」とのこと。

seeing sociologically
(社会学的に見る)


特に、「見るということ」を社会学しよう、ということを研究しているそうだ。

「目の前に見る対象があって、それを自分が知覚して見ている。でも、本当にそうなのだろうか。それを考え始めたのが社会学である」と、ここでも力説された。

c0223443_17412210.jpg話が進み、こんなものを見せてくれた。
大学の授業で習った懐かしい絵である。
・心理学でよく用いられる“ダブルイメージ”
 →お婆さんに見えたり、女性に見えたり。
 
【出典】「図説 アイ・トリック―遊びの百科全書」  カマル社(2001)
種村 季弘 , 高柳 篤 , 赤瀬川 原平 (著)
PP4-5


教授はこの絵を説明しながら、「社会学では、見るということは、客観的に物があって、それを自分が見ているということではなくて、もっと別な要因、つまり、そこに社会的なものが入っているのではないかと考える」と教えてくれた。

このほかにも、白黒のぐるぐる螺旋の図で、見た目は何でもないのに、凝視するとぐるぐる回ってくるもの。物理的には動いていないのに、無意識のうちに動いて見えるものなどを紹介してくれた。
c0223443_1745057.jpg

極めつけがこのステレオグラム。目の使い方をちょっと変えられるかということが肝心なのだが、文字が浮かび上がってくるシロモノである。このブログのために、≪わらしべ広報プランナー≫が制作した「わら」の文字が見えるだろうか。

教授によると、「これらから言えるのは、人間は物に対して固定観念があって、ある見方をしているので、そう見えてしまうということが分かる。これは近代社会の物の見方であって、一つの物の見方を当然だ、当たり前だと思い込んでいる。言い換えれば、それは近代的な物の見方をするからそう見える」ということだそうだ。

さらに、「例えば、近代は物の見方を遠近法で見るということを非常に普遍化してしまった時代である。近代人になればなるほど、遠近法は当たり前のものの見方になってくる。客観的である。しかし、かつて日本でも絵画は遠近法で描かれていない時代があった。」と言葉を繋ぎ、
「我々はいかに近代的に物を見せられてしまっているのかということを、そのメカニズムを解明していきたいと考える。世の中には脱近代的な物の見方があることを考えてみたい。」と、
こういうことを「見ることの社会学(seeing sociologically)」でいろいろな形でやっていきたいと抱負を語った。

普段、何気なく使っている“近代化”という言葉の意味がよく分かった気がした。


c0223443_1751221.jpg◎お宝を拝見します!

教授のお宝を拝見させてもらった。

「私のお宝は、Tシャツ(unlearnのロゴの入ったもの)てす。
シカゴ大学の生協(購買部)で友人がお土産に買ってきてくれたものです。」


教授にこのモノの由来を伺うと、
「私の授業のキーワードは、”unlearn”ということ。
unlearn という発想は、un には learn という動詞をゼロにするという意味がある。
learn は学習するという意味だが、それをもとの状態に戻すということである。
もう一回、覚えたことをゼロに戻してあげる。
20世紀までの常識と21世紀これからの常識は必ずしも同じではない。
だから、これまで覚えたことをリセットして、もう一度新しいことを覚えなおすということが必要になってくる。
幸いなことに、人間は忘れることができる。もう一度、再編成することができるのである。
それが教育ではないかという教育観が私にはある。
そのキーワードが、unlearnということで、
日本では 鶴見俊輔氏 が提唱していて、私もその一人です。」
と、また言葉が心地よい音楽のように潤沢にあふれ出てきた。

シカゴ大学で、unlearn のTシャツがあったのは、これを提唱している日本人で歴史学者の酒井直樹(現コーネル大学人文学部教授)という人がシカゴ大学にいて、歴史をunlearnすることを提唱しているからだそうだ。


c0223443_17551773.jpg◎わらしべの交換

最後に、このブログのタイトルに由来する“わらしべ長者”のこどく、物々交換の儀式をした。

わらしべ広報プランナーである私からは、日常の趣味より、【将棋プロ棋士 深浦康市 王位「臥竜鳳雛」モデル扇子】を贈った。
「臥竜鳳雛」は、三国志からの出典で、それぞれ『臥竜=諸葛孔明、鳳雛=龐統士元』を意味している。

c0223443_17593065.jpg椎野教授からは、
話の続きで、「見ることの社会学」から、
人が動いて体操(転回運動)をしているように見える【見ることの社会学定規】を戴いた。

このほかにも研究室には自然と動いて見えるものでいっぱいだった。



  この定規が次回どんなものに化けるのか、請うご期待です。
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by bunkyo_warashibe | 2009-12-11 18:06 | 国際学部